親知らず抜歯後の食事の注意点と痛みについて-口腔外科医が解説します
2025年12月8日
いままで気になっていた親知らず。
ようやく抜いたけど、ご飯はいつから、何を食べられるのか?
そもそも、痛くて食べられないし、痛みはいつまで続くのか?
抜歯をされたばかりの方はもちろん、親知らずの抜歯を検討されている方も非常に気になる事だと思います。
今回は、親知らずの抜歯後の食事のタイミングや、食べられる物や注意点について解説してみたいと思います。
また、気になる痛みについても、いつまで続くのか?痛みが続く時の対処法なども、併せてご案内します。
親知らず抜歯後の食事の注意点
抜歯した後の穴「抜歯窩(ばっしか)」は、いわば「傷口」と同じ状態です。特に抜歯当日から数日間は、食事の選び方ひとつで、治癒の速さや痛みの出方が大きく変わってきます。
感染を防ぎ、回復を早めるために、以下の点に細心の注意を払いましょう。
抜歯直後の食事の選び方
まず大事なのは、麻酔が切れるまで(通常、だいたい抜歯後2~3時間)は食事を控えることです。
麻酔が効いているとお口の感覚が鈍っていて、唇や頬の内側を誤って噛んでしまい、大きな傷を作ってしまう危険があります。
麻酔が切れて食事が可能になったら、当日の食事は噛む必要のない、流動食や半固形食から始めましょう。
抜歯した穴に食べ物が入り込まず、傷口に負担をかけないことが大切です。
一例として、下記のような食べ物が良いでしょう
- ゼリー、プリン、ヨーグルト
- ポタージュスープ、おかゆ(具なし)
- スムージー、豆腐など
また、温度は熱いものは血管を広げ、血行を良くするため、再出血や痛みの原因となります。
人肌程度のぬるいもの、もしくは冷たいものを選んでください。
アイスクリームなどは、腫れを抑える鎮静効果も期待できます。
食べる際は、抜歯した側とは反対側の歯を使って、ゆっくり食べるように意識してください。
また、ストローの使用は止めましょう。ストローで吸う力が、傷口を塞ぐ蓋になっている「かさぶた(血餅:「けっぺい」といいます)」を剥がしてしまい、激しい痛みを伴う「ドライソケット」の原因となります。
よくある「飲むゼリー飲料」もストローのように吸う形となるので控えてください。
通常の食事に戻るタイミング
通常の食事に戻すタイミングは、個人差がありますが、だいたい以下のとおりです。
- 翌日~3日目:痛みや腫れが強くなければ、おかゆ(五分粥→全粥)、柔らかく煮たうどん、卵料理、白身魚の煮付けなど、柔らかい固形物に移行していきます。
- 4日目~1週間:徐々に通常の食事に近づけますが、硬いものや刺激物は引き続き避けます。
ポイント: 痛みや腫れが強い場合、または口が開きにくい場合は、無理に固形物に戻す必要はありません。
栄養バランスを考えつつ、柔らかい食事を継続してください。
「いつから」という明確な日付よりも、「ご自身の痛みや口の開き具合」を基準にしたほうが良いでしょう。
避けるべき食べ物と飲み物
傷の回復を妨げる可能性があるため、抜歯後少なくとも数日~1週間程度は、以下のものを避けてください。
- 刺激物:唐辛子などの香辛料、カレー、キムチ、酸味の強いもの(酢の物、柑橘類)など。
傷口を直接刺激し、激しい痛みを引き起こすことがあります。 - 硬いもの:せんべい、ナッツ類、フランスパン、硬い肉など。
噛む際に傷口に負担がかかります。 - 小さな粒状のもの:ゴマ、イチゴの種、ふりかけ、ナッツの欠片など。
抜歯した穴に入り込みやすく、取り除くのが困難で、細菌感染の原因になることがあります。 - アルコール(お酒):血行を促進し、腫れや痛みを強くします。
これは、処方された抗生物質や鎮痛剤の効果に影響を与える(効きすぎたり、副反応が強く出たりする)可能性がありますし、最低でも抜歯後3日間、できれば腫れや痛みが完全に引くまで禁酒してください。 - 熱い飲み物:熱いコーヒー、お茶、スープなども、食事と同様に血行を促進するため避けてください。
番外編:食べ物ではないですが、傷が治るまでは煙草も止めておきましょう。喫煙によって血行が悪くなるため傷の治りが遅くなる場合があります。
親知らず抜歯後の痛みとケア方法
抜歯後の痛みや腫れは、抜歯した多くの方が経験するであろう正常な反応です。
特に骨を削ったり、歯茎を切開したりした場合は、侵襲(しんしゅう:身体への負担)が大きくなるため、症状が出やすくなります。
しかし、適切なケアで痛みを最小限に抑えることが可能です。
痛みの原因とその対処法
痛みの原因:痛みは、歯や骨を抜く(削る)ことによる患部組織の損傷と、それに対する「炎症反応」によって起こります。
痛みは通常、抜歯当日~翌日をピークに、徐々に和らいでいきます。
対処法:最も効果的な対処法は鎮痛剤の服用です。
抜歯後に歯科医院で処方された鎮痛剤(カロナール・ロキソニン・ボルタレン)を、指示通りに服用してください。
ちなみに薬の効きの強さはカロナール⇒ロキソニン⇒ボルタレンとなっています。
後者になるほど、胃などへの刺激が強いため、食欲不振や胃痛、口内炎などの副反応が出る場合もあります。
妊娠中や(無いと思いますが)インフルエンザに罹患している場合は禁忌の薬もあるので、処方される際、医師に確認をした方が良いかもしれません。
痛みを我慢する必要はありません。
「痛くなってきたな」と感じる前、麻酔が切れかけるタイミングで1回目を飲むのが、痛みをコントロールするコツです。
処方薬(抗生物質など):細菌感染予防のために抗生物質(化膿止め)が処方された場合は、痛みや腫れがなくても、必ず指示された日数分を最後まで飲み切ってください。
自己判断で中途半端に飲むのを止めてしまうと、治りきらずに悪化してしまうこともあり、「※薬剤耐性菌」が生まれる原因にもなります。
※抗生物質の自己判断での服用中止や期間の短縮、過剰な使用などにより、細菌が完全に死滅せずに耐性を獲得してしまい、本来効くはずの抗生物質が効かなくなってしまう。
安静にする:抜歯当日は、激しい運動、長時間の入浴、飲酒は避けて安静にしてください。
血行が良くなることで、痛みや出血が強くなります。
腫れを抑えるためのポイント
腫れは、痛みよりも遅れて現れることが多く、抜歯後48時間~72時間後(2~3日目)にピークを迎えるのが一般的です。
冷却(アイシング):抜歯当日~翌日(最大48時間程度)までが効果的です。
方法:冷却ジェルシートや、タオルで包んだ氷のう(アイスノン)などを、頬の外側から断続的に(例:20分冷やして10分休む)当ててください。
注意点:冷やしすぎは逆効果です。血行が悪くなりすぎると、かえって治癒を遅らせます。また、口の中から直接氷で冷やすのは厳禁です。
腫れのピークを過ぎたら: 3日目を過ぎても腫れが残っている場合(内出血であざのようになっている場合など)は、逆に温める(蒸しタオルなど)ことで血行を促し、腫れを早く引かせる方が効果的な場合があります。
ただし、痛みが強い時や傷口が膿んで感染が疑われる場合等は自己判断せず、必ず歯科医師に相談しましょう。
ドライソケットの予防と対策
上記「抜歯直後の食事の選び方」でも少し触れた「ドライソケット」ですが、抜歯後の合併症で最も注意すべきものの一つが、この「ドライソケット」です。
ドライソケットとは?: 抜歯した穴には、通常「血餅(けっぺい)」と呼ばれる血液の塊(かさぶたの役割)ができ、それが傷口を保護し、蓋の役割となり治っていきます。
この血餅が、何らかの刺激で剥がれてしまい、骨が露出した状態を「ドライソケット」と呼びます。
抜歯後2~3日目以降から、鎮痛剤が効かないほどの激しい痛みが続くのが特徴です。
予防法としては
- 強いうがいをしない:ちょっと前までの親知らずの抜歯後は、うがい薬を処方された方も多いかと思います。
現在では、せっかく出来た血餅が洗い流されるのを防ぐため、抜歯当日はうがいを避け、翌日以降も「ぶくぶく」と強くゆすがない、というのが標準となっています。 - 傷口を触らない:歯が無くなった違和感もあり、凄く気になると思いますが、舌や指、歯ブラシなどで抜歯した穴を絶対に触らないでください。
- ストローを使わない: 前述のとおり、口の中の圧力が血餅を剥がす原因になります。
- 喫煙を控える:こちらも前述のとおり、タバコは血行を著しく悪化させ、傷の治りを遅らせ、ドライソケットのリスクを非常に高くします。最低でも1週間は禁煙してください。
ドライソケットになってしまった場合は?
ドライソケットは自然治癒が難しく、激しい痛みが続きます。
もし「鎮痛剤が効かないほどの痛みが、数日後から出てきた」という場合は、我慢せずにすぐに抜歯した歯科医院に連絡してください。
歯科医院で傷口の洗浄や、薬剤を詰める処置を受けることで、痛みは改善します。
おまけ:親知らずの抜歯、昔と今の違い
親知らずの抜歯は、昔と今(2025年現在)で「術後のケア」の考え方が大きく変わりました。
かつては「痛みや腫れは我慢するもの」でしたが、現在は「いかに術後の不快感を減らし、安全に治癒を促すか」が重視されています。
1. 抜歯した穴(抜歯窩)の処置
昔の治療では、抜歯した穴は「開いたまま」にし、自然に血餅ができて治るのを待つのが一般的でした。
そのため、腫れや痛みはある程度我慢する必要がありました。
親知らずの抜歯後、頬っぺたが腫れあがった人、よく見ましたよね…
現在の治療では、抜歯後すぐに抗生物質を投与することで感染と腫れを抑えます。
また、激しい痛みを伴う「ドライソケット」を防ぐため、抜歯した穴にコラーゲンスポンジなどの薬剤を詰めることが増えました。
これにより傷口が物理的に保護され、治癒が促進され、術後の痛みが軽減されます。
2. 痛み止めの使い方:「痛くなってから」から「痛くなる前」へ
昔は、鎮痛剤は痛みが出たら飲む「対症療法」が中心でした。
現在では、痛みのピークを抑えるため、麻酔が切れる前に鎮痛剤を服用する「先制鎮痛」が主流です。
痛みを極力抑えるために、予測してコントロールする考え方に変わっています。
3. うがい:「消毒」から「血餅の保護」へ
抜歯後のうがいの方法も、大きく変わりました。
昔は、感染予防のため「とにかく消毒する」という考えから、早期に強いうがいを推奨されることもありました。
現在では、傷口のかさぶたである「血餅」を守ることを最優先する考え方になっています。
「ぶくぶく」という強いうがいは絶対にしてはいけません。
強いうがいは、この血餅を剥がしてしまい、ドライソケットの最大の原因となります。
水やうがい薬を口に含んで、口を強く動かさず、顔を左右にゆっくり傾けるなどして、液体を口内全体、特に抜歯した付近に行き渡らせます。
そのまま吐き出す程度にとどめます。
親知らずの抜歯は、昔に比べて術後の負担の少ない治療へと進化しています。
ご自身の治療を受ける際は、最新の設備や治療方針について、ぜひ担当の歯科医師とよくご相談ください。
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コラム監修

柏クレイン総合歯科・
矯正歯科院長
鶴田 正
- ・医療法人社団友正会 理事長
- ・口腔外科医
- ・インビザラインドクター
歯のトラブルでお悩みの方は、ぜひ一度「柏クレイン総合歯科・矯正歯科」にご相談ください。
丁寧なカウンセリングと診察に基づいた治療で、患者様の健康的な歯と口の状態をサポートいたします。
・好きな食べ物:温泉卵





